コラム
ご当地のお好み焼
2021年10月24日(日)

 広島市で食べられているお好み焼は全国的にも有名だが、広島県内にはそれとは素性の違う様々なお好み焼がある。調べればキリがなく、絶滅寸前のものもあるし、もしかすると既に失われてしまったお好み焼もあるかもしれない。一部の地域では、それらを存続させようと、商工会や観光協会が中心となって活動を行なっている。また「広島てっぱんグランプリ」に代表されるイベントへ出店するため、地域が新しいお好み焼を開発したものも多い。

府中のお好み焼

 府中市内で古くから食べられているお好み焼。2008年に「備後府中焼きを広める会」によって「備後府中焼き」と名付けられた。広島市内でも専門店が多く、「広島てっぱんグランプリ」で初代王者となったこともあり、知名度がとても高い。特徴はもやしを入れずに、肉は牛や豚の挽肉を使うこと。巷では、カリカリに焼き上げるのが府中のお好み焼の特徴だと思われているが、それは誤解である。府中市出身の人にこの話を聞くと、少し遠くを見つめながら語ってくれる。

 備後府中焼きドットコム

府中市「おかめ」そば肉卵

尾道のお好み焼

 「尾道焼き」とも呼ばれるが、これは尾道観光協会が2010年NHK朝ドラ「てっぱん」の放送にあわせて定義したもので、「尾道産のいか天とゆで麺を基本に、砂ずりや海の幸を入れた重ね焼き」としている。尾道では古くからいろんなスタイルのお好み焼屋があり、それらのお店でも手間なく「尾道焼き」が名乗れるよう苦心したと推測する。実際に尾道を食べ歩いた範囲では生地にシャバシャバ感があり、緩めのお店が多い。あとデフォルトでは麺が半玉になる。もやしはお店によって使ったり、使わなかったりする。砂ずり入りにすると、お好み焼の一番上に乗せてひっくり返すので、よくはみ出ている。隣の人の砂ずりが、ポロリと転がってこちらに入るとラッキーである。

尾道市「村上」村上流尾道焼(砂ずり、イカ天入り)砂ずりがポロリしている

三原のお好み焼

 三原で最も特徴的なのは、鳥モツであろう。前述の尾道と違い、鳥モツの様々な部位が使われる。もやしは入らず、ニンジンを入れるお店が多い。トッピングにのしイカがあるが、実際にはイカ天が使われている。麺が入ったものをモダン焼と呼ぶのも特徴。このようなお好み焼は、三原市内で昔から食べられており、それを「三原焼き」と名付けてPRしているのが「三原焼き振興会」になる。

  三原焼き振興会

三原市「てっちゃん」モダン焼(そば)モツ入り

因島のお好み焼

 戦後、因島の小さな地域だけで広まったお好み焼。「いんおこ」と呼ばれている。もやしが入らず、麺は中華そばではなく、うどんを使用するのが一般的。麺はほぐした後キャベツの上に重ねる。トッピングのイカがイカ天ではなく、のしイカなのも特徴。前述の三原市内でイカ天のことがのしイカと呼ばれているのと対照的。

  いんおこ(因島観光協会)

因島土生町「越智」お好みイカ玉(手前)うどん入り(奥)

純米吟醸たけはら焼
 酒蔵の多い竹原市で開発されたお好み焼。特徴は、生地に純米吟醸酒の酒粕を混ぜ込んでいること。合わせる麺は、中華そばよりもうどんを推している。竹原市内にはこのお好み焼を出すお店が数件ある。焼き方はそれぞれのお店で少し異なる。考案者の「御幸」は仕上げの卵の代わりに生地を使うことによって、酒粕の風味をさらにましている。ただ、卵のコクが失われるので、チーズのトッピングをお勧めしている。

竹原市「御幸」たけはら焼チーズ入り

庄原焼き
 庄原焼きは、B級グルメブームをうけて開発されたわりと新しいお好み焼。庄原産の米が入り、ソースではなくポン酢で食べるお好み焼になる。ポン酢は粘度が強めに作られており、これをお客自身がお好み焼にかけて食べる。ポン酢でさっぱり食べられると謳っているが、ご飯入りはボリュームがあるので気をつけよう。ついうっかり、モチまで入れてしまい、お腹がはち切れそうになった人を知っている。

  庄原焼き公式ホームページ

庄原市「コバヤシ」庄原焼き

三次唐麺焼

 「みよしからめんやき」と読む。でも、うっかり「とうめんやき」と読んでしまう人も多い。さらに広島県外の人からは、「みつぎからめんやき」とか「さんじとうめんやき」などと読まれ、もうそこから元の名前を想像するのが難しいことになってしまう。そんな難読名称のお好み焼プロジェクトは、三次商工会議所青年部が中心となって活動している。三次市にある毛利醸造の「カープソース辛口」と江草製麺の「唐麺」を使用することが、三次唐麺焼を名乗る必須条件。辛いのが特徴だが、激辛というわけではない。三次市外でも扱うお店は多い。

  三次唐麺焼プロジェクト

三次市「たむ商店」三次唐麺焼

呉のお好み焼

 広島てっぱんグランプリでは、呉の細うどんとピリ辛味噌を使用したものを「呉焼」として出していた。しかし、呉市内で同じものを提供するお店はほとんど見かけない。実際に呉市内で食べてみると、まず麺と肉と野菜をウスターソースで炒めて、焼きそばに近いものを作り、それを生地の上に乗せて包むように二つ折りにする。地元の人に聞くと、これが昔ながらの呉のお好み焼とのこと。くれぐれも呉焼と呼んではならないと念押しされた。

呉市「やました」お好み焼うどん入り肉玉

ぼたん焼

 かつて音戸、倉橋島、能美島、江田島の一部で焼かれていたお好み焼。今ではメニューに載せてるお店はわずかになっている。特徴として、もやしが使われず、先に麺と野菜から炒めて生地に乗せる焼き方。それと、必ず中華そばが入る。同じお店のお好み焼でも、そばが入らないとぼたん焼とは呼ばない。うどん入りの場合は、ぼたんうどんと呼ばれる。ぼたん焼はモダン焼が訛ったものであるとの説があるが、信憑性は高いと思う。

  海陽彩都No.27冬号(呉地方拠点都市地域推進協議会)

倉橋町「久保」ぼたんうどん

広島市のお好み焼

 戦後、広島市中心部で始まった屋台から広まった。現在の一般的な焼き方は、まず鉄板に薄いクレープ状の生地をひき、その上に魚粉、キャベツ、もやし、天かす、豚肉を順番に重ねていき、ひっくり返してしばらく焼く。焼くといっても生地で蓋をするように焼いているので、野菜からでる水分で蒸し焼きになる。これに中華そばやうどんをほぐし炒めたものを重ね。最後に玉子を鉄板に落として、やっぱり本体と重ねる。仕上げにお好みソースを塗り、薬味を乗せて完成。作り方からもわかるように、具材が層として積み重なって一つのお好み焼を形成している。層となる具材や順番は、お店によって異なる。

広島市「みっちゃん総本店 八丁堀本店」そば肉玉



参考
1) 書籍,  熱狂のお好み焼 , シャオヘイ
2) 書籍,  広島お好み焼完全マスター本 , 一般財団法人 お好み焼アカデミー